バリー・アイケングリーン:ドル安のワケ

IMFのシニア政策アドバイザーなどを務めたUC BercleyのBarry Eichengreen教授が、昨年来進んだドル安の要因分析をしている。
その上で、ドル相場が反転する兆しも見え始めていると注意を喚起している。


「市場はその知性において1年以上もこの論理を拒んだ。」

アイケングリーン教授はProject Syndicateへの寄稿で、昨年来ドル相場が論理の逆を行ったと回想する。
「この論理」とは何だったろう。

  • レーガンとボルカーの時代、減税と金融引き締めの組み合わせがドル高をもたらした。
  • レパトリ減税はドル買い圧力になる。
  • 完全雇用など供給制約がある中での関税による国内需要増は、需要を海外製品に戻すメカニズムを必要とする。
    「そうしたオフセットのうち最もありそうなのは、もちろん実質為替レートの上昇であり、それはインフレ、またはもっとありそうなドル高によってのみ実現する。」

(たいした論理でもないように感じるが)学者はこう考えていたらしい。
その予想が裏切られた。
そして、世間にはアイケングリーン教授が把握しているだけで19個もの説明が流布しているのだという。
教授はそのうち2つが世間で有力だとして紹介している。

  • トランプ大統領が約束を果たさなかった。
    しかし、減税などいくつか果たした約束もあり、これは唯一の理由とはなりえない。
  • 実質為替レート上昇がドル相場ではなくインフレによって実現すると市場が見ている。
    FRBがインフレのオーバーシュートを許容しているため、ドル安が起こったとする見方だ。

教授は後者について正しい可能性があるとしながらも、本当にインフレが起こるのか今後の物価状況を注視すべきとしている。


ここで少し復習をしよう。
《実質為替レート上昇がドル相場によって起こる》とは何のことか。
これは、そのままの意味だ。
私たちが日頃目にする名目為替レート、例えばドル円レートが上昇し、その幅に対する物価要因が小さければ、実質為替レートも上昇する。

では《実質為替レート上昇がインフレによって起こる》とは何のことか。
ある時点でのドル円レートが110円、1年後が109円、つまりドル安になったとする。
インフレは日本がゼロ、米国が2%とすると、1年後の109円=1ドルからインフレ要因を取り除くと109円=0.98ドル。
実質ベースのドル円は111.22円と前年よりドル高になっている。
つまり、名目のドル円相場がドル安でも、米インフレのために実質ベースではドル高となっている。

アイケングリーン教授は、もう1つ有力な説を挙げている。
それは、トランプ政権のもたらす将来の不確実性である。
本来なら安全逃避先であった米国が今や不確実性の発信源となっている。
教授は、さらに状況が混とんとすれば、ドル安が進むだろうと言う。

ところが、そうした予想に反例が現れた。
アイケングリーン教授は、トランプ大統領が鉄鋼・アルミ関税を宣言した3月1日の市場の動きが重要だと言う。

株式市場は下落し、ドルは上昇した。
不確実性は居座るだろうが、3月1日のドル高は外国為替市場に起こることの前ぶれかもしれない。


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