クルーグマン:本当に最悪で愚かな政策

貿易パターンと経済活動の立地の研究で2008年ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授が、トランプ大統領の鉄鋼・アルミに対する関税導入を批判した。
この政策がFRB利上げを急がせドル高を生むシナリオにも言及し、トランプ大統領は最後まで暴走を続ける可能性が高いと予想した。


保護主義とは、仮に外国が報復してこなくても、貿易赤字を減少させるのに対して役立たない。
そして広く(自国)経済に大きな苦痛を与える。
サプライ・チェーンの混乱による問題を考慮しなくてもそうなのだ。

クルーグマン教授がThe New York Timesのブログで、5,000億ドルの貿易赤字を関税によって解消するための目の子計算をしている。
貿易相手国からの報復がないとした場合の、つまりかなり控えめな推計である。
現在の貿易赤字は対GDP比で3%、輸入は15%。
輸入需要の価格弾力性を1と仮定し、全品目に20%の関税を課すとする。
他の条件を一定とすれば、短期的には輸入15%の20%にあたる3%程度の改善が見込め、これは貿易赤字を解消する規模になる。

実際には、輸入が国内生産に振り替わることで乗数効果が見込めるから、3%の輸入の国内生産化はそれ以上のGDPの増加を意味する。
仮に米生産が4.5%増える可能性があるとしても、ここで供給力による制限が立ちはだかる。
米経済は完全雇用に近く、これほど大きな生産増を国内で賄うことはできないとクルーグマン教授は指摘する。


せっかく保護主義という毒薬を用いたのに(少なくとも短期的には)貿易赤字はたいして解消しない。
では、その無理はどこにしわ寄せされるのか。
輸入品価格の上昇を通して、物価上昇をもたらすことになる。
先の計算と同じく、20%の関税は直接的な効果だけで物価を15%×20%=3%程度上昇させる。
すでに物価上昇率が2%をうかがう米国では、この大きさの+αは許容できるオーバーシュートとは言えまい。
(もちろん、現時点は品目が限られているので、これほど大きなインパクトは予想されない。)

そこで、FRBは金融引き締めを急がざるをえなくなる。
クルーグマン教授はこの金利上昇が2つの影響を及ぼすと指摘する。

  1. 金利感応度の高いセクターを圧迫: 「トランプの友達の不動産屋は高いレバレッジを利用しており、不利益を被るだろう。」
  2. ドル高: 米輸出セクターに大きな損害を与える。

いずれも貿易赤字解消という方向性と逆行するものになっている。

今回のクルーグマン教授の思考実験は、あくまで報復関税等の報復措置が講じられない場合に限られている。
1930年スムート・ホーリー法では報復が報復を呼び、米貿易は半分以下に落ち込んでいる。
教授は、こうした悪循環を懸念する。

貿易相手国はすでにターゲット・リストを書き上げつつある。
米国は主要同盟国を敵に回した。
そして、政権は本当に最悪で愚かな政策アイデアを抱いている。
これらから示唆されるのは、私が考えているのと同じく、トランプが本当に最後までやり続ける可能性が高いということだ。


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