
バーナンキ:長期金利ターゲットのリスク
ベン・バーナンキ元FRB議長が、日銀の「総括的な検証」についてコメントしている。
村社会の悪口を口にしない同氏だが、それでもいくつか有用な指摘が含まれている。
日銀の「総括的な検証」は世界中から注目された。
以前、長期金利ターゲットを危険視していたバーナンキ氏は自身のブログで日銀の選択を論評している。
マネタリー・ベース目標は徐々に撤廃へ
日銀が導入した長期金利ターゲットは、長期レンジで日銀がオペを行うことで、長期金利を目標とする金利に誘導するもの。
従来は、日銀は保有国債を年80兆円増加するように買い入れるとしていた。
今後は、目標に達するまで売買することになる。
雑に言うなら、《概ね定額の買入れをします》という話から、《金利の目標を決めて、必要なだけ売買します》という話になった。
バーナンキ氏は、日銀が《80兆円》の目標を《80兆円を目途》として温存した点を「わかりにくい」(puzzling)と評している。
「時間が経つにつれ、日銀が新たな金利ペッグを継続する限り、冗長な量の目標はより柔軟になり、重要性を失うだろう。
日銀のコミュニケーションは、金融緩和の程度の指標として、保有国債の量ではなく国債利回りを強調することになろう。」
長期金利ターゲットのリスク
バーナンキ氏は、長期金利ターゲットに移行するリスクを指摘する。
- 日銀は自らのバランスシートの拡大についてコントロールできなくなる
- 金利に上昇圧力がかかった場合、買える国債をすべて買い入れなければならなくなる
債券が投げ売りされる等、日銀の金利ペッグが不可能と市場が考えると、こうしたリスクは尖鋭になるという。
ただし、バーナンキ氏は、こうしたリスクが日本については高くなくコントロール可能だろうという。
- 日銀はすでにたくさんの国債を抱えている
- 民間に残っている玉は、利回りとは関係ない理由(担保など)で保有されている
- 長期金利を維持するには80兆円要らないだろう
- 結果、国債買入れの持続可能性も増す
うまくいかなければヘリコプター・マネーに似てくる
バーナンキ氏は、黒田総裁が否定し続けているヘリコプター・マネーについてもコメントした。
「何がヘリコプター・マネーかについては定義の議論があるが、政府債務の金利を無期限にゼロとすることは、マネタリー・ファイナンスのある要素である。」
実は、米国は長期金利ターゲットとヘリコプター・マネーの先駆者だとバーナンキ氏は語る。
FRBは第2次大戦中・直後、戦費の調達コストを引き下げるために長期金利ターゲットを採用していた。
「もしも、日銀が超長期国債までターゲティングし始めれば、(米国のヘリコプター・マネーとの)類似性は高まる。
・・・
将来(ヘリコプター・マネーとしての)協調が実現してしまうかどうかは(今回の)新たなフレームワークが日本のデフレを完全に終わらせるほど強力か否かにかかっている。」
今回の政策変更をそこまで「強力」と考えている人はどれだけいようか。
オーバーシュート型コミットメントの条件
よくわからないとの指摘も出ている「オーバーシュート型コミットメント」については、バーナンキ氏は条件付きで効果を認めている。
「インフレ目標のオーバーシュート型コミットメントは、日銀が闘いを放棄しようとしているとの市場の憶測を払拭するのに役立った場合にのみ、建設的となる。」
こちらも厳しい条件つきのようだ。