バーナンキ:「失われた」金融緩和の取り戻し方

物価目標の実現性と信認

以上の議論から、バーナンキ氏の結論はこうだ。



「物価目標引上げは1つの検討すべき選択肢ではあるが、その手法には重大な欠点もある。
幸運にも、恒久的な高インフレを強いることなしにゼロ金利制約の影響を緩和することができる有望な政策の選択肢が存在する。
そうした2つの選択肢(それらは関係し、組み合わせることができる)は、物価水準目標と「埋め合わせ」政策だ。
こうした政策の下では、中央銀行は『失われた』金融緩和をゼロ金利制約脱出後に取り戻すことをコミットすることになる。」

後任らの自由度を奪わないよう注意をしながら、それでいて周到な議論を尽くしているのがバーナンキ氏らしい。
さらに、結論はヘリコプター・ベンらしいハト派的なものだ。
New Neutralと呼ばれるような中立金利の低下に対応するには、政策金利の水準は伝統的水準より引き下げざるをえないからだ。

日本への敷延

問題は、この議論を日本に敷延する時に注意を要する点だ。
日米では前提となる状況に3つの大きな違いがある。


  • 日本は物価目標と実績の間に大きな乖離がある。
  • 日本は慢性的にゼロ金利制約に陥っている。
  • 日本ではフォワード・ガイダンスの信認が得られているとは言い難い。

前の2つが示唆するのは、日本が物価水準目標・埋め合わせ政策を採用した場合、将来の物価のオーバーシュートが極めて大きく長く続くことになるということだ。
結果、耐えがたいレベルの高インフレを長期間にわたって許容することになりかねない。
政治的観点から、そうした将来をコミットできるかどうか、社会・市場は疑うだろう。
結果、政策の効果は大きく減じられてしまうかもしれない。


フォワード・ガイダンスの信認不足については、過去の日銀の姿勢によるところが大きい。
昨年まで日銀はサプライズ重視のメッセージ発信を続けてきたし、今も出口を頑なに語らないなど市場との意思疎通は良好とは言えない。
これも政策効果を減じる大きな要因だ。

こうした違いを乗り越えるのに近道はなく、愚直に現実的な方法で状況を改善していくしかない。
具体的には

  • フォワード・ガイダンス: 事務方レベルだけでなく金融政策決定会合レベルでも一方通行でない意思疎通を培う。
  • 物価目標の実現性: 2%の物価目標を1%や1.5%などに引き下げ、時間平均で目標水準を達成できるようになったところで2%に戻す。

などが真っ先に挙がるだろう。
要は、できもしない夢ばかり押しつけるのでなく、やれることを相談しながら一つ一つ実行していこうということだ。


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