バーナンキ:「失われた」金融緩和の取り戻し方

物価目標の引上げ

物価目標の引上げは、ある面でイエレン議長の「高圧経済」や日銀の「オーバーシュート型コミットメント」と似た面がある。
経済を吹かし気味に調整し、景気や金利を高めに置いておこうという考えだ。
この手法を支持する論点が5つ挙がっている:


  • 「正常な金利」が低下し続けている。
  • ゼロ金利制約に陥る頻度が高いと予想される。
  • 高インフレのコストは意外と小さいかもしれない。
  • 標準的なインフレ指標は家計のコストを過大に見積もっているかもしれない。
  • 単純で分かりやすい。

このうち初めの2つは《物価目標引き上げ》の根拠というより《何かをしなければいけないこと》の根拠だ。
次の2つは物価目標引上げが《望ましいこと》の根拠ではなく《許容される》ことの根拠だ。
つまり、物価目標引上げの利点とは最後の項目《単純さ》しかないことになる。


一方で課題は深刻だ。


  • 中央銀行の物価安定の能力は過去の政策の積み重ねの上に成り立っており、インフレ期待の目標をシフトさせるのは難しいかもしれないし、高い代償をともなうかもしれない。
    「特に、目標変更のコスト・ベネフィット計算は、市場の不安定化や経済の不透明化を含む移行コストまで盛り込むべきだ。」
  • 物価目標引き上げは政治的に不人気なものだ。
    新たな目標の実現が不可能と考えられてしまえば、正常な金利は上昇しない。
    ゼロ金利制約では、実現の可否はむしろ財政政策の成否による。
  • 理論的には、金融緩和の効果はなるべく長い期間、中立金利よりも実際の金利を低く誘導することで大きくなる。
    物価目標を引き上げても、中立金利と実際の金利の関係には直接的には変化は起こらない。

バーナンキ氏は2つの点から物価目標引き上げの効果が小さいと結論する。

  • 物価目標を引き上げると高インフレの期間が比較的長くなり、その分社会的コストを強いることになる。
  • 何もしないよりは効果的となる可能性もあるが、後述の代替手段よりは劣る。

(次ページ: カギを握る新たな政策選択肢)


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